こんにちは。

中医学では、体のはたらきを「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の五臓を中心として考えます。

その中の「脾(ひ)」は胃腸のはたらきと関係のある臓器であり、食べ物などから生命力を補充するので「脾は後天(こうてん)の本」と呼ばれています。

食べ物が「胃」に入っても「脾」がちゃんとはたらかなければ、栄養物は吸収されず、「気」「血」「津液(水)」「精」の生成が上手くいきません。要するに、「脾」のはたらきの弱い「脾気虚(ひききょ)」の状態であれば、いくら栄養のあるものを食べても、体に吸収されないことになります。

昔から「脾」の弱いことを「脾弱(ひよわ)」と言うように、「脾気虚」は疲労倦怠感や免疫力の低下などにもつながります。

しかしながら、この「脾」の機能=胃腸の消化吸収機能は、レントゲンや内視鏡に写るものではなく、健康診断で胃腸に異常がない…と言われても機能面まで問題がないかというと、そうとは言えません。

中医学では、「食欲がない」「食後膨満感」「軟便」の症状を「脾気虚」のチェックポイントとしています。

「食欲がない」とは、食事の際に「お腹が空いた!」といった健康的な空腹感がない…ということであり、「時間が来れば食べる」というのは中医学的には食欲がある…とは言えません。

「食後膨満感」とは、胃腸の機能低下により食べ物がスムーズに降りて行かない状態です。別の角度から、「食後眠くなる…」というのも「脾気虚」と考えます。

「軟便」はそのままですが、普段は便秘がちだけど、どうかすると下痢をしやすい…というのも含まれると思います。

胃腸の機能に悪影響を与える要因…外的な環境要因(外因)と精神的ストレス(内因)が考えられます。

「脾は湿を悪(い)む」という言葉があるように、胃腸の機能は「湿邪(しつじゃ)」の影響から機能低下を起こしやすいとされています。日本の年間降水量は世界平均(1000ミリ弱)の2倍もあり、湿気が多く「脾気虚」になりやすい環境と言えます。

日本人は冷たい物を好んで飲んだり食べたりします。人類の長い歴史の中で冷蔵庫が各家庭に普及したのはほんの数十年のことです。胃腸が直接冷やされる機会が増えることで、「脾」の機能低下が進んで行きます。「寒」は胃腸の機能を低下させるのです。

また、年間3万人とも言われる自殺者が出るほどのストレス社会において、多く見られるストレスは「怒」と「思」です。「怒」は自分の思うようにならない、「思」は今さらどうしようもないことをいつまでも思い悩む…といった感情です。これらの感情も「脾」の機能低下につながります。

胃腸の機能に悪影響を与える「外因」と「内因」…出ている症状だけを考えるのではなく、もう少し広く考えていく必要があるのかもしれません。