こんにちは。

我が国では、東洋系の医学をひとまとめに「漢方」と言うことが多いですが、少し厳密に言うと中国の伝統医学である「中医学」、朝鮮の「韓医学」、さらに民間薬も含まれます。

近年、日中の交流が深まる中で中国の伝統医学である「中医学」が日本に知られるようになりました。ところが、日本の「漢方医学」と中国の「中医学」との間には、似て非なるものと言ってもよい程の大きな違いがあることはあまり知られていません。

日本の「漢方医学」は「方証相対(ほうしょうそうたい)」という方法、「中医学」は「弁証論治(べんしょうろんち)」という方法を用いる点が、その違いです。「漢方医学」も「中医学」も、その患者さんに適した処方を決定して治療を行う点は同じですが、問題はその処方をどうやって選ぶか…という「アプローチ」と「処方に対する考え方」の違いです。

「方証相対」とは?

日本の「漢方医学」の「方証相対」は、患者さんから得た情報に基づく処方(配合分量などが固定されている)を数多く用意しておき、その中から最も最適な処方を選ぼうとします。

つまり、症状や体質を総合して判定した病態(証)に対して、1つの処方(方)を選ぶわけです。患者さんの「証」をカギ穴とすれば、その扉を開くカギに当たるのが「方」で、ピッタリ合えば扉は開く、治癒するはずだとされます。

その仕組みをわかりやすく言うと「証」はカルタの上の句、「方」はカルタの下の句に当たります。例えば、

「脈が浮いている、頭部や首筋、肩などの筋肉がこわばり痛みや悪寒がする、汗はかいていない」(「証」が上の句)ときには、「葛根湯を用いる」(「方」が下の句)となります。

中医学の見立て「弁証」とその対策「論治」

中医学では、病気が「どこで」「何が」「どうなっているか」を調べる「物差し」である「弁証」に沿って、病気を見立てます。

「脈が浮いている、頭部や首筋、肩などの筋肉がこわばり痛みや悪寒がする、汗はかいていない」

①脈をとると、触れると皮膚のすぐ下で鼓動している脈(浮脈)は、カゼのような感染症の初期に多く見られる脈。つまり、病気は始まったばかりの急性病で、体の浅い部分に病気を知らせる症状が見られる。→表証

②寒気が強く、筋肉のこわばりが見られる。→寒証

③病原体(邪気)の侵入が起こり、これに対抗する抵抗力(正気)が反応して汗腺を閉じたために鳥肌状となり汗が出ない→表実証

これらを総合して、この人の「証」は「表寒実証」という見立てになります。そして、これに対して対策を考えるのが「論治」です。

病気が「表」にあるので、「表」に作用して邪気を追い出す「解表」という治療法を選びます。「寒気」が強いので体を温めるようにする。「表」は抵抗力を失っていないので、強く発汗させても問題なし。

そこで「傷寒論」の理論と経験によって、「表寒実証」に対応する「辛温解表」を採用し、強く体を温め発汗させ、首筋や肩などの筋肉のこわばりを除く作用のある「葛根湯」を選択します。

結果は同じ、でも途中が違う

寒気を訴え、無汗の患者さんに「葛根湯」を用いる点では同じですが、「弁証論治」では「表裏」「寒熱」「虚実」などの理論によって症状を理論化する段階と、それに対応する治療原則の考案、処方構成を考え、処方に至る段階を踏むわけです。